2023年11月10日

建設業における安全協力会費の実態

建設業の安全協力会費、その実態から消費税は課税取引
静岡支部調査研究部 渡村満明


Ⅰ,税務調査での指導
 以前、ある税務署管内での税務調査で、安全協力会費は課税仕入れに該当しない不課税取引であるとの指摘を受け、納税者は金額が小さいことからこれを受け入れ修正申告書を提出した。私としては納得がいかなかった。安全協力会費は元請会社が建築の労災保険を負担することから、その一部を下請業者に負担させようとしたことから発生したもので、下請業者は当該建築について労災保険を負担する義務はなく、安全協力会費は元請会社からの売上値引きに相当し、課税取引であると主張した。今でもそう思っている。


Ⅱ,不課税取引とする根拠
 不課税取引の根拠は
消費税法基本通達(会費、組合費等)5-5-3
『同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するものであるが、その判定が困難なものについては、継続して、同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その会費等を支払う事業者側がその支払いを課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。』
を根拠としている。
 その他に、
同基本通達(会費、組合費等)11-2-6
『事業者がその同業者団体、組合等に対して支払った会費又は組合費等について、5-5-3(会費、組合費等)により、団体としての通常の業務運営のために経常的に要する費用を賄い、それによって団体の存立を図るものとして資産の譲渡等の対価に該当しないとしているときは、当該会費等は課税仕入れに係る支払対価に該当しないのであるから留意する。』
及び、
タックスアンサー№6467(会費、組合費等)『同業者団体や組合などに支払う会費や組合費などが課税仕入れになるかどうかは、その団体から受ける役務の提供などと支払う会費などとの間に明らかな対価関係があるかどうかによって判定します。対価性があるかどうかの判定が困難なものについては、その会費などを支払う事業者とその会費などを受ける同業者団体や組合などの双方が、その会費などを役務の提供や資産の譲渡等の対価に当たらないものとして継続して処理している場合はその処理が認められます。なお、この場合には、同業者団体や組合などは、その旨をその構成員に通知するものとされています。』
を根拠にしている。


Ⅲ,ネット上の意見
 ネット上でも建設業界での安全協力会費への問い合わせ、それに対する回答や解説が多くみられる。そしてその多くは、安全協力会費は消費税の課税対象外であるとしている。
 その理由としては、安全協力会費には、役務の提供などの明らかな対価性が判定できないからとか、安全協力会費は基本的には労災保険料といった保険料の名目で計上されるケースが多く、保険料は対価関係に当たらないことから一般的には課税対象外(不課税取引)となると解説している。ただし、明らかに対価性が高い名目(研修会のための安全協力会費等)で会費を徴収されている場合は、消費税の課税仕入れになると付保している。
 また、安全協力会費は、安全に現場の施工を行うために、協力会社や下請業者等に、安全意識の向上や技術などに関する研修等を行う目的で作られた元請会社の安全協力会に対する会費として徴収されるとしていて、当該安全協力会費の法的根拠として、建設業法第24条の7(下請負人に対する特定建設業者の指導等)建設業法施行令(法第24条の7第1項の法令の規定)があるとしている。これは、1つの工事で出した下請の合計金額が4,500万円以上になるような建設会社のことで、当該建設会社は下請業者に対し建築基準法・労働基準法・労働安全衛生法等で該当する法令を遵守するように、当該下請業者の指導に努めなさいとするものである。これらの法律は元請会社が、その受注した仕事に携わる下請業者への指導監督を義務付けるもので、下請業者からそのための費用を徴収してよいということは一言も言ってないし、そのようなことは許されることでもない。


Ⅳ,安全協力会及び安全協力会費とは何者か?
 安全協力会は任意団体、任意団体とはその名の通り「任意」で活動する団体のこと。サークルのような小さいのもから、事務局のようなものを作って会費・寄付等を集め、事務員に給料を支払うことができる大きなものまで、さまざまな団体がある。ただし、あくまで任意の団体であるため、法律で定めた法人格は持っていない。そのことから「権利能力なき社団」とも呼ばれることもある。ただし、権利能力なき社団は、
最高裁判例
『団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。』
との要件が示されている。

 また、会費とは、会の運営・維持に必要な費用として、会員が出し合うお金のこと。町内会費、PTA会費、中小企業家同友会会費等。会費によって運営されている団体は、団体の趣旨や活動に賛同し、会費を払ってくださる人たちに、しっかりとした会計報告をすることにより、団体の信頼度が増し、継続的に会費を支払っていただけることにつながる。
 ところで、建設業界の安全協力会はどんな団体なのだろうか。発起人は元請会社である。元請会社と当該会社から仕事をもらっている下請業者が会員になって、会費は元請会社からの仕事をし終わって元請会社に請求した金額に対し○%を安全協力会費として徴収されるのである。
 会員が自主的に会費を納めるのではなく、下請仕事の請求金額から差っ引かれる。会費に不満を言ったり、会費を納めることに反対すれば、当然元請会社からの仕事は減少するだろうし、全く無くなることも想定される。
 最高裁判例では構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、とあるが、構成員である元請会社がいなくなれば当該安全協力会は存続しない。果たして、安全協力会なるものは一般に言う任意団体なのだろうか、そして安全協力会費は何のために、だれが使うのだろうか。


Ⅴ,安全協力会費の実態
 安全協力会費の実態はどのようなものか、当事務所が関与している取引先の安全協力会費の支払い状況を確認してみた。
 下請業者が48件の元請会社に支払った安全協力会費の内、税抜の支払金額から0.1%~3.0%を徴収している会社が30件(うち2件は10%の消費税を加算、1件は0.55%で以前消費税加算していた。)、10%の消費税込みの支払金額から0.1%~3.0%を徴収している会社が14件、定額で徴収している会社が4件であった。
 安全協力会費を徴収している元請会社の多くは、会計報告等を行っておらず、また、当該安全協力会費について課税取引に該当しない旨の通知を発行しているわけでもない。それでも、総会を開き決算報告を行っている会社も少しあるようだが、入手できた2社の決算報告書を見ると、徴収した安全協力会費から支出した傷害保険・賠償責任保険・労災保険負担金といった保険関係の支出割合は84%と30%がある。
 これらは元請会社が受注した工事に関する契約と思われ、本来当該元請会社が負担すべきものと考えられる。元請会社の工事での労災保険は法的にも元請会社の責任で対処すべきものである。
 1社は安全協力会費として徴収した金額を上記保険関係及び安全大会等にほぼ支出しているが、もう1社は安全協力会費として徴収した金額の45%を上記保険関係及び安全大会等に支出しているだけである。
 その他に○○会の会費からの支出が主と思われるが、ゴルフ大会費や叙勲祝賀会費に多額が使われている。ゴルフ大会をやるのであればゴルフ大会参加者が費用負担をすればよいことであり、叙勲祝賀会もその参加者が祝儀を出せばよいことである。
 また、安全協力会費と○○会費との収入合計金額に対し、次期繰越金である内部留保金額の割合は約70%と130%であった。
 これらの実態からみて、下請業者にとって安全協力会費は、取引上優越した地位にある元請会社が、当該元請会社の諸費用をその優越的地位を利用して下請業者から徴収するものである。以上のことから、安全協力会費は売上値引きに相当する課税取引以外の何ものでもないといえる。


Ⅵ,税務署への要望
 以前私が所属していた中小企業家同友会の会費は、会員の、会員による、会員のための会費であった。この場合であれば、上記基本通達5-5-3に該当するが、安全協力会費は、元請会社の優越的立場を利用した、元請会社の、元請会社による、元請会社のための会費である。したがって、同通達5-5-3に該当するものでなく、下請業者にとって売上値引に相当する課税取引以外のなにものでもないのである。下請業者は、安全協力会費として天引きされるのに多くは不満たらたらである。○○会としての会費についても同様である。又、安全協力会及び○○会費の決算書における内部留保の金額も多い。問題が多い会費である。
 友人の税理士の顧問先の税務調査でも、税務署職員が安全協力会費は不課税取引であると主張し、課税取引として処理していたものを修正するようにと言ってきたそうである。元請会社からの値引相当であるとしての主張を譲らず、修正はしなかったそうである。税務署は安全協力会費が不課税であるといった先入観をもって税務調査に当たっているように見受けられる。しかし、今まで述べてきたように、安全協力会費の実態は取引上優越的な立場にある元請会社が、本来は元請会社自身が負担すべき費用を、弱い立場にある下請業者から安全協力会費として徴収しているものであり、下請業者にとって売上値引以外のなにものでもない。
 したがって、国税庁に置かれましては、安全協力会費の実態を把握・理解されたうえで、法令通達の適用をお願いします。また、インボイスの適用もあるものと考えますので、その対応指導もお願いいたします。
 最後に、建設業界において、優位的立場にある元請会社が下請業者から徴収する安全協力会費や○○会費というものは、下請法第4条2項3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)に抵触すると考えられます。
 建設業界の健全な発展のため、これらの会費は早急に廃止されることを願っています。



Posted by トムラカイケイジムショ at 14:58│Comments(0)
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